ややこしい生地の裏表について、生地屋店長の石井が写真付きで紹介します。
生地端の穴が凸のほうが表だと思っている方も多いと思いますが、凹で表の可能性のあるもあります。
生地端の穴はあくまで判断材料の一つとして、ここに挙げる複数条件から生地の裏表を判別することが大切だと考えます。ぜひ最後まで見てみてくださいね。
もくじ
生地の表と裏の判定方法
耳の穴が凸になっている方が表である(一番簡単)
一般的にはぽこっと膨らんでいる「凸」が表と思っている方が多いのではないでしょうか。
実は、そうでないパターンもあります。
表(だと思われる)がへこんでいる「凹」になっている生地を見つけました。
カットドビーと言われる生地で、裏切り・表切りがあります。
もし、どっちが表だろう?裏だろう?と疑問に思うことがあったら、下記に挙げる複数の条件を2つまたは、3つ満たす場合、おそらくそちらが表であると推測できると思いますのでぜひ試してみてください。
パターン1:織物の端に示された標識や模様が鮮明な方が表
有名ブランドの生地には端にブランド名が織で入っていることがあります。
リバティ生地も端にブランド名が入っていますよね。
プリントは明らかですが、織物で裏表が分かりにくい場合は生地端に標識があれば裏表を判別することができます。
標識というのは、ブランド名などの文字がプリントされているような状態のことを表します。
文字が読める方が表!というのはとてもわかりやすいと思います。
色やツヤの状態がはっきりしている方が表である
デニムで言えば、濃い方。
サテンで言えば、ツヤがある方が表です。
少し分かりにくいですが、ツイル生地(チノ生地)にも裏表があり、こちらもツヤがある方が表です。
当店のオリジナルコットンツイル No.8660で、下が表です。より光沢や模様が鮮明であるように見えます。
ツイルの場合、左上がりに綾線が出ている方が表であることが多い
ツイル生地には右上がりと左上がりのものがありますが、一般的には左上がりのものが多いです。
縞糸(しまいと)が美しく、規則的に現れている方が表である
縞糸とは柄を表す色糸のことです。
具体的には、より綺麗にストライプやギンガムの柄が現れている方が表ということになります。
また、裏は柄が不規則になっているものもあり、基本的には規則的に現れている方を表とします。
ストライプなどシンプルな柄で裏表が分かりやすく出るのは平織のストライプではなく、縞部分が繻子織-しゅすおり-(サテンの織り方)や綾織-あやおり-(ツイルの織り方)になっている場合です。
怒られてしまうかもしれませんが
平織の場合は正直、私たちが見ても違いは分かりません。
経糸(タテイト)が多く浮いている方が表である
織物は経糸(タテイト)と緯糸(ヨコイト)によって作られています。
先染め織物の場合、柄は経糸が浮いたり、沈んだりすることによって表現されます。
例えば当店の綿ポリ織りドットで言えば、ドットの部分は経糸が連続して浮いている為にドットに見えています。
裏表を聞かれた場合は「どちらでも好きな方を表にお使いください」と伝えていますが、企画側としてはこちらを表として企画しています。
裏の方が好きなんだ!という方はそれでも全く問題ありません。
パイル織物はパイルの多い方が表である
パイル織物とはタオルなどのフワフワな生地のことです。
タオルのホワっとした状態のものをパイルと呼びます。
パイル織物の中でもさらにパイル生地とシャーリング生地に別れます。
パイル生地は裏表にできたパイルをそのまま残した生地で、一般的なタオルはこちらです。
シャーリング生地とは、片面のパイルをカットした生地になります。
パイル生地の裏表は分かりにくいんですが、シャーリング生地の裏表は見ればすぐ分かります。
当店で扱っている、あわゆきタオル生地はパイル生地ではなく、シャーリング生地です。
良くみていただくと表のパイルをカットしてあるのが分かるはずです。
パイルをカットして整える加工をシャーリング加工と言い、この一手間を加えることで滑らかでふわっふわの肌触りを実現しています。
生地の裏表を間違えるとどうなる?
実は、問題ありません。
企画側としては、表がより綺麗になるように企画していますが、裏だから色落ちしやすいとか強度が落ちるということはありません。
好きな方を表として使ってください。
平織は裏表がありません
仕上げ加工の際の裏表はありますが、織りによる裏表は平織やオックスなど、経糸の浮き沈みが1:1になっている場合は裏表ができません。
ツイルやサテンなど、どちらかの面に経糸が多く浮いている場合のみ裏表ができます。
余程特殊な場合をのぞいて加工での裏表は見てもわからないはずです。試しに普通の平織の生地を裏表見てみてください。
なんだか、ややこしいんだけど、結局どうすればいいの?
自分の好きな方を表に使ってください。
企画側としては裏表を決めて企画していますが、デザインするみなさんがこっちの方がいいと思った方を表に使っていただいて全く問題ありません。
あまりややこしく考えずに、自分の直感にしたがって洋裁を楽しんでくださいね。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
今回使った生地
糸の撚りと綾線の関係について
単糸ツイルは左上がりがセオリー
ここからは少しややこしい、もう一歩踏み込んだ話になるので、興味のある方だけご覧ください。
糸には単糸、双糸(2本)、三子(3本)などがあり、撚りにはZ撚りとS撚りがあります。
撚りはタオルを右回転、左回転で絞ってみると理解しやすいと思います。
上記図の通り、Zは右回転、Sは左回転です。基本的には綾線とクロスするような撚りの糸を使うのがセオリーで、そうした方が綾線がはっきりと現れた織物になります。
このツイルは単糸のZ撚りの糸を使っているので、セオリー通り左上がりに企画しています。
双糸ツイルは右上がりがセオリー
右上がりのツイル生地です。経糸と緯糸をそれぞれ解いてみると
双糸と単糸の組み合わせであることがわかりました。双糸を使用しているから右上がりに企画しているんですね。
デニム生地は単糸でも右上がりのものがある
このデニムは綾線が右に走っていますがタテヨコ共に単糸です。基本的には綾線とクロスするような撚りの糸を使うのがセオリーで、そうした方が綾線がはっきりと現れた織物になります。ですが、デニムは基本的には単糸(Z撚り)の物が多いにも関わらず、右上がりの物が多いです。どうしてだろうと思っていたんですが面白い資料を見つけました。
この資料によると、デニムではあえてZ撚単糸をセオリーとは逆の右上がりに組織することで、綾線をあえて不明瞭にしてテクスチャーをはっきりさせない、ダルdull(鈍い)な感じこそが本流だとしています。資料ではZ撚りを右上がりに組織した場合と左上がりに組織した場合の比較画像が添付されているので興味があれば見てみてください。同じ糸を使っても組織によってここまで明瞭さが変わります。
デニムは特殊なので、一般的なツイル生地は単糸の場合は左上がりで覚えておいて問題ありません。
右上がりが表になるパターンとしては双糸使いのツイルになっている場合があります。
これは糸の撚りと関係があるのですが、詳しくやるとややこしいので、記事の最後で解説します。興味のある方は読んでみてください。